飲食店の開業を目指す方にとって、まず大きな壁となるのが「開業資金」です。
「なんとなく必要そう」といった感覚だけで準備を始めようとしていませんか?
資金計画を誤ると、せっかく開業できてもすぐに資金ショートを起こす…という事態になりかねません。
この記事では、飲食店専門の会計事務所の視点から、現実的な資金計画の考え方と注意点について解説します。
1. 開業資金=“見えているコスト”だけでは足りない
「開業資金」と聞いて、多くの方がまず思い浮かべるのは内装工事費や厨房設備代、物件取得費などの初期投資です。もちろんこれらは重要な要素ですが、それだけで資金計画を立ててしまうのは非常に危険です。
なぜなら開業直後からすぐに売上が安定するとは限らないからです。というよりすぐに十分な売上があがるケースはまれです。飲食店はオープンしてから知名度が上がり、常連がつくまでには時間がかかります。最低でも3カ月分、できれば半年分の運転資金(人件費、家賃、仕入れ等)を確保して始めることをおすすめします。
2. 自己資金の目安は「開業資金の30%」
資金計画の中で特に意識すべきなのが「自己資金と融資のバランス」です。たとえば、総額1,000万円の開業資金が必要な場合、自己資金として300万円(=30%)程度は用意しておくのが理想です。最低でも100万円程度は必要と考えましょう。
金融機関は「どれだけ自分でリスクを取る覚悟があるか」を見ています。全額を借り入れに頼ろうとすると、「返済能力に乏しい」「準備不足」と判断され、融資が通りにくくなる傾向にあります。
自己資金としてみなされるかどうか、よくご相談を受けるケースを以下にまとめましたので参考にしてください。
✅ 自己資金とみなされないものの例
1.直前に入金された不自然な資金
→ 開業直前にまとめて入金された資金は「見せ金(資金の見せかけ)」と判断されやすい
2.タンス預金や金庫に保管していた現金
→ 通帳に履歴がないため、金融機関では裏付けを取れない
3.支援者(出資者)からの資金で明確な契約がないもの
→ 出資とみなされない場合は「返済の必要がある不確かな資金」と判断される
4.クレジットカードのキャッシングやローンによる借入金
→ 借金であるため「自己資金」とは認められない
5.短期間だけ一時的に入金し、すぐ出金された資金
→ 審査時にチェックされ、見せ金と疑われる
✅ 自己資金として認められるものの例
1.本人名義の普通預金口座にコツコツ積み立てた資金
→ 定期的な入金履歴があると信頼性が高い
2.給与や事業所得からの貯金
→ 給与振込や売上入金→貯蓄の流れが見えるもの
3.定期預金(本人名義)
→ 通帳や証書で所有が確認できるもの
4.本人のタンス預金を銀行に入金して6ヶ月以上経過した資金
→ 急な入金は疑われるが、一定期間前から入っていればOK
5.贈与契約書がある親族からの贈与
→ 金融機関への返済を優先する返済計画書と契約書があれば親族からの借入も認められる場合がある
6.本人名義の証券口座にある株式・投資信託
→ 価格変動が大きい場合は認められない場合もある
7.退職金
→ 離職後に一括で入金された資金など
8.相続で取得した資金(遺産分割協議書などで確認可能)
→ 相続財産として法的に取得したものであれば有効
9.生命保険の解約返戻金
→ 解約返戻金として受け取れる金額が明記された書類があれば実際に解約する必要はない
3. 見落とされがちな“隠れコスト”に注意
資金計画で忘れられがちなのが、細かな諸費用や手数料などです。以下のような費用も見逃せません。
- 営業許可申請・保健所の手数料
- ゴミ処理・排水工事・害虫駆除
- 看板製作・外装工事費
- POSレジや会計ソフトの導入費用
- オープニングスタッフの採用・研修費
- メニュー表・ショップカードのデザイン・印刷代
これらを加味していないと、「工事は終わったのに営業が始められない」という事態に陥ることもあります。
4. 運転資金の考え方:月商×3カ月~半年分が目安
開業直後の売上は読みにくいため、最低3カ月間(一般的に半年)は赤字でも耐えられる設計が求められます。ここで重要なのが「運転資金」の確保です。
たとえば、毎月の支出(家賃+人件費+光熱費+リース代など)が80万円程度と想定される場合、
80万円 × 3カ月 = 240万円
は運転資金として確保しておくべきです。
できるだけ半年分の運転資金を準備しておくことをおすすめします。
5. 無理のない資金調達の選択肢
開業時の資金調達の基本は、日本政策金融公庫や各地域の制度融資です。
特に日本政策金融公庫の創業融資は原則無担保・無保証人なしで借りられるので、開業希望者にとって心強い味方です。
また地方自治体の制度融資では、信用保証協会を通じて比較的低金利または無利子で融資を受けられる場合もあります。住まいや開業予定地の自治体が開業希望者にどのような支援をおこなっているか確認してみましょう。
6. 専門家と一緒に、現実的で“金融機関が納得する”資金計画を
金融機関などに相談する際にも「どれくらい資金が必要か」をはっきりさせることがとても重要です。
内装工事費、厨房設備代、物件取得費などの初期費用に加え、人件費・家賃・仕入れなどの運転資金も見込んでおく必要があります。
また、
- その資金は何年くらいで回収できそうか?
- 借りた資金は、毎月いくら返済すればよいか?
- 借入金を返しながら生活費も確保するには、どのくらいの売上が必要か?
といった点も、開業前にきちんと見通しを立てておくことが大切です。
とはいえ、こうした資金の見通しを立てるのは、慣れていない方には難しく感じるかもしれません。
だからこそ、数字に強い専門家と一緒に、無理のない計画を立てることをおすすめします。
「どれくらい準備しておけばいいの?」「借入ってどう考えたらいいの?」
そんな疑問があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
あなたの不安や疑問に、わかりやすく丁寧にお答えします。
まとめ:資金計画は成功のカギ
飲食店開業において、資金計画は成功のカギを握る最も重要な要素のひとつです。
「なんとかなるだろう」と甘く見ず、慎重かつ現実的な計画を立てることが、長く続けられるお店づくりの第一歩になります。
自己資金と借入のバランス、数カ月分の運転資金、そして見落としがちな隠れコストまで含めた計画が不可欠です。
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