「立地が命」と言われる飲食店経営ですが、実は立地に“良い”“悪い”はありません。また成功する経営者は、“感覚”でなく“数字”で物件を選んでいます。この記事では、立地特性、契約条件、家賃比率、必要売上高、導線効率といった要素を総合的に評価し、開業後の経営を見据えた物件選びのポイントを解説します。
1.「好立地」より「適合立地」
一度開業するとお店の場所は簡単に変えることはできません。その意味でも飲食店経営は「立地が命」と言われています。物件選びの際の立地は、“良い”“悪い”ではなく、お店のコンセプトに“合っているか”“合っていないか”という視点で探すことが重要です。一般的な評価に縛られず、自分のお店に合っているかどうかを念頭に入れて調査しましょう。
まず具体的に、立地特性別の問題点と対策例を見てみましょう。
立地特性別:問題点と対策例
立地特性 | 主な問題点 | 対策例 |
オフィス街 | – 営業時間帯(ランチタイム)に来客が集中 – 土日客が少ない | – 時間帯ごとの戦略営業(昼はランチ、夜は接待など) – 店外販売、テイクアウト・宅配導入 – 土日用の集客策(イベント開催など) |
住宅街 | – 平日の夜が弱い – 店前通行量が少ない | – 平日の売上確保のため広告や販促を強化 – 家族層・主婦層向けの来店動機づくり |
商店街 | – 日常生活に密着したエリアのため、客単価が低め – 店舗面積や設備に制限がある | – 商業環境に応じた業態設定 – 地元密着型で客層を固定化 |
ロードサイド | – 顧客が車利用前提 – 大手チェーン店の競合が多い | – 駐車場整備 – 交通量や来客層に合わせた業態 – チェーン店との差別化(価格・メニュー・雰囲気など) |
繁華街 | – 競合が非常に多く、競争が激しい – 家賃が高い – フリー客が多く固定化しにくい | – 差別化商品の強化(話題性) – 目立つ工夫 – 地元客の固定化対策 |
「ランチを提供するお店」とひと言で言っても、オフィス街なら提供スピードが最優先。一方住宅街で平日日中の主な顧客が主婦層なのであればひと手間かかった料理やゆっくりくつろげる空間が重要視されるかもしれません。また、ロードサイド立地の場合はアルコール提供による売上は見込めません。
繁華街は店前通行量が多い分見込み客は多いのですが、競合店も多いため、選ばれるための差別化が一層重要になります。
候補地が、お店のコンセプトに合った立地かどうかいま一度見直してみましょう。
2. 商圏を調査する
さらに解像度を上げるために、お店の候補地の商圏分析をします。
【商圏分析で分かること】
・開業前に売上の上限を見える化できる
・ターゲット層を明確にできる
・立地特性に合わせた業態・営業時間・メニュー設定が可能になる
・競合との差別化ポイントを見つけやすい
【商圏分析でやること】
- 潜在顧客数の把握
人口、通行量、世帯構成、年齢層、所得水準などを調査 - 来店動機とタイミングの特定
平日昼・夜、週末昼・夜ごとに動線を把握 - 競合状況の把握
業態、価格帯、強み・弱みを分析 - 売上予測の精度向上
必要客数と現実的な集客数のギャップを確認
商圏分析の具体的なやり方
- 現地調査(複数時間帯・曜日で実施)
例:Googleマップの「混雑する時間帯」やレビューを活用 - データ調査
例:商圏人口統計、国勢調査、自治体の商業統計データを活用 - 競合店舗調査
例:価格帯、メニュー、口コミ評価、回転率などを確認 - ヒアリング
例:近隣店舗や不動産業者、商工会議所から情報収集
プロアクション会計事務所では、商圏分析で有名なMarketAnalyzer™ satelliteを導入しており、地域の世帯年収や徒歩圏内の年齢分布といったデータの提供を実施しています。実地調査で得られた情報に客観的な目線を加えることで出店計画の精度を大幅に上げることができます。
3. 物件そのものの適性を見極める
飲食店の家賃は、売上の10%以内に抑えるのが理想と言われます。たとえば月商300万円の店なら、家賃は30万円以下が望ましいということになります。ただし、一概に家賃比率だけでなく、具体的な損益シミュレーションと物件内部の効率性まで考える必要があります。
① 必要売上と客数を具体的に算出
同じ和風居酒屋でも立地条件によって必要売上と必要客数が大きく変わります。
物件 | 家賃 | 必要売上 | 必要客数/日(客単価3,000円) | 主なメリット | 主なデメリット |
A物件(オフィス立地) | 50万円 | 350万円 | 47人 | 通行量が多く新規客を獲得しやすい | 家賃高、集客が途切れると赤字リスク |
B物件(住宅立地) | 25万円 | 250万円 | 33人 | 家賃が安く常連を作りしやすい | 初期は集客に時間がかかる |
こうした試算で、自店の営業力で到達可能な数値かどうかを判断します。
② 店舗レイアウトと動線効率の確認
図面段階で、厨房と客席の位置関係、配膳や片付け動線をチェックします。
- 動線が長く交差が多い → 配膳時間増、回転率低下、人件費増加
- 厨房面積が過剰/不足 → 調理効率やメニュー構成に影響
ポイント:開業前に改善可能な動線かどうかを見極めること。
③ 工事・施工契約での落とし穴回避
業者を選ぶポイント①:飲食業専門または豊富な経験があるかどうかを見極める。
- これまでに作ったお店を見せてもらい、自分の目で実績と実力を確認する。
- 最低2社から相見積もりを取り、内容を比較検討する。
業者を選ぶポイント②:内装工事契約時には必ず工事契約書と費用明細書を取り交わす。
- 契約額を超える追加料金は認めない条項があるかどうか確認する。
- 工期遅延時のペナルティや補償規定があるかどうか確認する。
- 引渡し後の一定期間のアフターサービス義務があるかどうか確認する。
おまけ:店舗は消耗品。デザインや内装もいつかは修繕が必要になるので、初期投資の回収計画に加え、長期的なメンテ費用も想定に入れておきましょう。
まとめ:飲食店経営の“半分以上”は物件で決まる
物件選びは、単なる不動産契約ではありません。それは“未来の利益の設計図”を選ぶ行為です。家賃・坪数・初期投資・来客数・回転率…これらすべてを数字で組み立てたとき、初めて「経営に耐える店づくり」が始まります。
物件選びの時点で方向を誤ると、どれだけ魅力的なメニューや接客をしても黒字には届きません。逆に、数字で支えられた物件選定ができれば、飲食店経営の半分以上は成功したと言っても過言ではありません。
物件選びで成否の7割が決まる
立地商売である飲食業はお店ができた時点で成功するかどうかの7割が決まると言われています。
プロアクション会計事務所では、多くの飲食店に関わってきた知見とMarketAnalyzer™ satelliteによる客観的な商圏分析を組み合わせて、少しでも成功可能性を高めるための物件選びをサポートしています。
「物件選びで失敗したくない」「良い立地で開業したい」とお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。