
「もっとお客さんが来れば、売上も増えて、きっと黒字になるはず…」
そう考えている飲食店オーナーの方は多いかもしれません。でも、実際には「どのくらいのお客様に来ていただければ利益が出るのか?」を正確に把握しているお店は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、売上の構造を分解しながら、どの要素に手を加えれば必要な売上が確保できるかを解説します。
1. 売上は「4つの数字」でできている
飲食店の売上は次の掛け算で成り立っています。
売上=客単価×席数×回転率×営業日数
※席稼働率も考慮するべきですが、分かりやすくするために今回は省略します。
この「掛け算」で構成されているという点が重要で、一つの数字(例:客単価)が想定より下回れば、他の数字(例:回転率や営業日数)を上げて補う必要があります。
2. 客数=席数×回転率。平日と週末で分けて考える
回転率は、一般的に曜日によって大きく異なります。
たとえば:
- ランチ営業:毎日1.5回転
- 平日ディナー営業:0.5回転
- 週末ディナー営業:0.8回転
これらを加味すると、売上の計算式はこうなります:
①ランチ売上=客単価×座席×回転率×営業日数
②平日ディナー売上=客単価×席数×平日回転率×平日営業日数
③週末ディナー売上=客単価×席数×週末回転率×週末営業日数
▶合計売上=①ランチ売上+②平日ディナー売上+③週末ディナー売上
では具体的なお店をモデルに計算してみましょう。
▶モデル店舗の計算例
- 立地:ビジネス街
- 業態:イタリアン
客単価:ランチ1,000円 ディナー5,000円
- 席数:20席
- ランチ営業日数:24日、回転率:1.5回転
- 平日営業日数:16日、回転率:0.5回転
- 週末営業日数:8日、回転率:0.8回転
ランチ売上:1,000円×20席×1.5回転×24日=72万円
平日ディナー売上:5,000円×20席×0.5回転×16日=80万円
週末ディナー売上:5,000円×20席×0.8回転×8日=64万円
▶合計売上:216万円/月
このように数字を分けて計算すると、現実に即した売上上限が見えるようになります。
3. 想定より客単価が低いなら「客数を増やす」必要がある
実際に営業を始めると想定どおりにはいきません。メニュー設計では客単価5,000円を想定していても、実際は平均単価が3,000円程度というケースも珍しくありません。
この場合、客単価が想定より低かった分、掛け算の他の要素(回転率・席数・営業日数)を調整しなければ、目標売上には届かないということになります。
▶ディナーの客単価3,000円の場合の試算
ランチ売上(変更なし):72万円
平日ディナー売上:3,000円×20席×0.5回転×16日=48万円
週末ディナー売上:3,000円×20席×0.8回転×8日=38万円
▶合計売上:158万円/月(▲58万円)
→ 客単価が2,000円下がるだけで、売上は58万円以上ダウンする可能性があります。
ここで「客単価が低いから仕方ない」とあきらめるのではなく、どの数字をどう調整すれば目標に届くのかを考えてみましょう。たとえば次のような対処法が考えられます。
▶ 対処法:
- 回転率を上げる
待ち時間や滞在時間の短縮を工夫し、1日の中でより多くのお客様を受け入れられる体制に整える。モバイルオーダー導入、会計の効率化、席レイアウトの見直しなどが有効。
- 営業日数を増やす
定休日の縮小や祝日営業、アイドルタイムの活用(カフェ営業やテイクアウト販売など)により、月間の稼働日数そのものを増やす。これはシンプルだが効果が大きい
- 席数を増やす
店内スペースやレイアウトに余裕がある場合は、物理的に席数を増やすことで「1日の受け入れ可能な客数」そのものを底上げできる。これは単価や回転率を変えずに売上を伸ばす最もシンプルな手段の一つ。
- 広告を打つ
広告や販促施策で新規集客を強化する。常連率が低下しているなら、リピート施策(LINE登録・クーポン・限定メニューなど)を組み合わせ、安定的に「必要客数」を確保する体制を構築します。
- 客数を増やす
広告や販促施策で新規集客を強化する。常連率が低下しているなら、リピート施策(LINE登録・クーポン・限定メニューなど)を組み合わせ、安定的に「必要客数」を確保する体制を構築します。
- 客単価を維持する努力をする
セットメニューの設計やドリンク・デザートの提案などで、自然に注文金額が上がる導線をつくる。原価率も意識して、粗利を確保しやすい商品に誘導するのがポイントです。
▶修正後の試算(客単価3,000円の場合)
✅ 改善パターン①:ディナータイムの回転率を上げる
・平日ディナー回転率 0.5回転→0.8回転
・週末ディナー回転率 0.8回転→1回転
ランチ売上(変更なし):72万円
平日ディナー売上:3,000円×20席×0.8回転×16日=76万円
週末ディナー売上:3,000円×20席×1回転×8日=48万円
▶合計売上:196万円/月(▲20万円)
✅ 改善パターン②:営業日数を増やす
・平日営業日数 16日 → 20日(+4日)
ランチ売上:1,000円×20席×1.5回転×28日=84万円
平日ディナー売上:3,000円×20席×0.5回転×20日=60万円
週末ディナー売上:3,000円×20席×0.8回転×8日=38万円
▶合計売上:182万円/月(▲34万円)
✅ 改善パターン③:客数を増やす(席数増)
・席数 20席 → 24席
ランチ:1,000円×24席×1.5回転×24日=86万円
平日ディナー:3,000円×24席×0.5回×16日=57万円
週末ディナー:3,000円×24席×0.8回×8日=46万円
▶合計売上:189万円/月(▲27万円)
✅ 改善パターン①~③を組み合わせる
・席数 20席 → 24席
・平日営業日数 16日 → 20日(+4日)
・平日ディナー回転率 0.5回転 → 0.8回転
・週末ディナー回転率 0.8回転→1回転
ランチ売上:1,000円×24席×1.5回転×28日=100万円
平日ディナー売上:3,000円×24席×0.8回転×20日=115万円
週末ディナー売上:3,000円×24席×1回転×8日=57万円
▶合計売上:272万円/月(+56万円)
このように複数の条件を少しずつ引き上げるだけで、売上を大きく伸ばせる可能性があります。
すべてを一度に変える必要はありませんが、最も改善しやすい項目から順に取り組むことが、現実的で持続可能な成長につながります。
まとめ
「あと何人来れば黒字になるか?」は、席数×回転率という物理的なキャパシティと、実際の客単価や営業日数によって決まります。
「思ったより売れていない」と感じるときこそ、想定と現実のギャップを数字で見える化し、対応策を練りましょう。
プロアクション会計事務所ではこうしたシナリオ設計や数字のシミュレーションを通じて、「感覚ではなく、数字に基づいた集客と改善提案」をサポートしています。
“なんとなく集客”から脱却し、“数字に基づいた経営”を一緒に始めましょう。
