飲食店の開業は、夢と情熱の詰まった挑戦です。
しかし始めた瞬間から「経営者」としてお金の流れを管理し、税金や帳簿といった“会計の現実”にも向き合うことになります。
「料理のことは得意だけど、数字はちょっと…」という方でも大丈夫。
このコラムでは、開業前に知っておくべき会計・税務の超基本を5つのテーマに分けて、わかりやすく解説します。
① 「お金の流れを残す」習慣をつける
飲食店の開業と同時に、あなたは「経営者」としてお金の動きを管理する立場になります。まずは、「お金の流れを見える形で残す」ことを、生活の延長で始めてみましょう。
● レシート集めから始める
たとえば仕入れのレシートや、店づくりのために買った備品の領収書を、封筒や箱に入れておくだけでも立派な一歩です。日付と金額、用途がわかるようにメモを添えると、あとで見返すときに役立ちます。スマホで撮っておくのも手。ここで大事なのは、「あとで確認できるようにしておく」という習慣です。
● “お店専用”の通帳とカードを作る
お金の流れを分かりやすくするためには、事業用の口座とカードを分けるのが効果的です。開業前でも構いません。「これはお店のための支出だな」と思ったら、できるだけ事業用の通帳やカードから支払っておくと、帳簿づけがぐっとラクになります。
● 月に1回、ふり返ってみる時間をとろう
完璧を目指さなくても大丈夫。まずは、月末に15分だけでもいいので「今月のお店のお金、どう使ったかな?」とふり返る時間を持ってみましょう。このちょっとした“振り返り習慣”が、経営にとっても大きな助けになります。
② 「税金は自分で払う」覚悟と準備が必要!飲食店にかかる主な税金とその注意点
飲食店を開業すると、これまでサラリーマン時代には意識しなかった“税金の現実”と向き合うことになります。給料から自動的に引かれていた税金たちを、自分で計算して、自分で納付する立場になるのです。
しかも、納税は「まとまった金額を、一括で払う」ケースが多く、手元資金を圧迫する大きなイベントになります。だからこそ、「税金の種類とタイミングを知り、今から備えておくこと」がとても重要です。
● 飲食店にかかる主な税金
種類 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
所得税(または法人税) | 利益に応じて課税 | 利益に対する税金を翌年にまとめて支払う。計算も納付もすべて自分でおこなう |
消費税 | 売上に対して課税 | 原則として、売上1,000万円超の2年後から課税対象に。課税対象でなくてもインボイス登録が必要な場合も(⑤を参照) |
住民税・事業税・国民健康保険料 | 利益に応じて課税 | 計算は地方自治体がおこない納付書に従って支払う |
償却資産税 | 内装・設備等に課税 | 内装工事代や厨房設備等といった資産に地方自治体が課す税金 |
● 「税金は後からやってくる」ことを忘れずに
多くの税金は、利益が出た年の“翌年”に課税されます。「消費税(課税業者の場合)」は、100万円単位の納税額になることも珍しくありません。
日々の売上や仕入れで忙しいと、「自転車操業で、納税のタイミングで手元に現金がない」という事態になりがちなので注意が必要です。
● サラリーマン時代とはここが違う!
項目 | サラリーマン | 飲食店オーナー(個人事業主) |
---|---|---|
所得税 | 給与から天引き(年末調整) | 自分で計算・申告・納付 |
社会保険・住民税 | 給与から天引き | 毎年金額を確認し、自分で納付 |
消費税 | 関係なし | 一定売上超で課税対象+インボイス対応も必要 |
確定申告 | 基本的に不要(年末調整) | 毎年必須!(青色申告などの選択も必要) |
● どう備えるべきか?3つのポイント
- 毎月「税金積立」をする習慣をつける
理想的には売上の1割程度を“税金用口座”に別途積み立てておくと安心です。 - 納税カレンダーを作る
税金ごとの納付時期をあらかじめ把握し、キャッシュフローを見越して準備しておきましょう。 - 専門家と連携する
税理士など専門家に早めに相談することで、過不足のない納税準備ができ、節税のアドバイスも受けられます。
③ 開業後に困らない!経費と領収書の扱い方
仕入れや備品、広告や人件費など、飲食店の経営にかかる日々の支出は多岐にわたります。
● 領収書・レシートは“会計の命綱”
保管の基本ルール |
---|
支払日、支払先、金額、支出内容が明記されたレシート・領収書類を保管 |
領収書がもらえない場合(ご祝儀や香典など)は、出金伝票を活用 |
(青色申告者の場合)最低でも7年間の保存義務あり |
● 事業用とプライベートはキッチリ分ける
経費になる例 | 経費にならない例 |
---|---|
食材の仕入れ | 家庭用の食材の購入 |
スタッフとの打ち合わせの食事 | 家族との外食 |
お店の広告費 | 自分のSNS趣味活動の出費 |
店舗用の清掃用品 | 自宅の掃除グッズ |
● 判断に困ったら…専門家に相談するのが“安全”
たとえば以下のようなケース:
- 自宅で経理作業などをしている場合の家賃や光熱費
- 車やバイクを業務と私用で兼用しているケース
こうしたケースは税理士などの専門家に状況を説明し、適切な処理方法を確認しましょう。
④ 帳簿管理は節税の土台
● ずさんな帳簿が招く“3つのリスク”
- 経費の見落とし
- 売上・利益の把握ができず経営判断が不明確に
- 税務調査でのトラブル発生
● 帳簿の付け方は“プロ”と二人三脚で整える
専門家に相談するメリット |
---|
節税につながる「正しい経費計上」のやり方を教えてもらえる |
青色申告の特典(最大65万円控除)を最大限活用できる |
会計ソフトやアプリの選び方、操作方法もサポートしてもらえる |
⑤ インボイス制度と飲食店:登録するかべきかどうかは2つの視点で判断
■ 確認ポイント①:お客様から「領収証の発行」を求められることが多いお店か?
- 接待・会議用の飲食として利用される
- 会計時に「領収証をください」と言われることが多い
- デリバリーや仕出しなどを請求書ベースで処理する機会がある
➤ つまり…
「領収証をよく求められる=インボイスの有無が選ばれるかどうかに関係する」と考え、インボイス発行事業者の登録を検討すべきです。
■ 確認ポイント②:BtoB取引が多い(企業相手の業務が多い)業態か?
- 企業のパーティや懇親会へのケータリング
- 会議・研修用の弁当納品
- 法人との業務委託契約(イベント出店、委託製造など)
➤ つまり…
BtoB取引が主な収益源となる場合、発行事業者の登録が実質的に必要です。
インボイス発行事業者になるとどうなる?
項目 | 内容 |
---|---|
消費税の納税義務 | 原則として売上に対する消費税を納税する必要あり(たとえ利益が出ていなくても) |
請求書の記載義務 | 「登録番号」「税率ごとの金額」「消費税額」などを正しく記載 |
記帳や証憑の保存 | 正確な帳簿管理と、証憑書類の保存が求められる |
結論:インボイス制度に対応すべきかは「誰に売るか」で決まる
- 「個人客」が中心
- 「領収証を求められることがほとんどない」業態
なら必ずしも登録は不要。
一方で、
- レシート・領収証を求められることが多い
- 請求書を発行することがある
- 法人顧客との取引がある
場合は、登録を検討すべきです。
開業前に専門家に相談を
インボイス制度は制度設計が複雑で、会計処理や帳簿管理にも影響を及ぼします。判断に迷ったら、開業前に税理士など専門家に相談し、業態に合った判断をすることが最も確実な方法です。
まとめ
飲食店経営にも、数字との付き合いが避けられません。長く続くお店を目指すためには会計と税金の基本は“後まわしにしない”ことがポイントです。
迷ったときは、専門家に早めに相談しましょう。
会計やお金に不安がある方へ
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